今回は、数学に関して書かれた書籍、苫米地英人著『数学嫌いの人のためのすべてを可能にする数学脳のつくり方』(ビジネス社)を紹介します。

数学に関する書籍の内容は、学術書以外では脳力トレーニング系か学校で習った数学の復讐を通してビジネスに役立つノウハウ的なイメージがあるかもしれません。

しかし、本書はそういったものとは違った観点で書かれた本で、数学は問題解決のためにあるのではなく、問題を発見するためのものという立場です。

このような立場で、数学や数学的思考とは何かの基本的な説明から、計算機科学、人工知能の説明までなされています。

数学の本でありながら、数式が数えるほどしか出て来ず、しかも内容をかみ砕いて言葉で説明されているので、難しさをほとんど感じさせないのも特徴です。

 

また、巻末付録としては、1992年に著者が書いた人工知能研究に関する論文が2本(『超並列自然言語処理』と『超並列制約伝播による主辞駆動型自然言語処理』)が収録されており、非常に充実した内容になっています。

個人的に興味深かった点は以下の点です。

  • 数学・数学的思考とは
  • 人は論理的に生きていない
  • 行動経済学
  • 2045年問題は起きない

 

ではこれらについて順番に見ていきます。

 

数学・数学的思考とは

本書の中心的なテーマでかつ基本的な部分です。

冒頭で書いたように、本書は数学は何か問題解決をするためのツールではなく、問題を発見するための学問ととらえています。

宇宙の真理(問題)を発見するというのが数学で、数学的思考はその発見のためだけに使うものです。

多くの人が数学を苦手にするのは、数式が理解できないからです。数式は特殊な言語のようなもので、専門家でないなら中身(コンテンツ)が理解できればひとまずはOKとのことです。

このように一般的な数学に対するイメージとは少し異なる説明で示唆に富んでいます。

 

人は論理的に生きていない

行動経済学の有名なプロスペクト理論は、人は利益を目の前にあるとリスクを回避し、損失が目の前にあるとリスクを選ぶ傾向にあるというものです。

人の満足度や幸福感は、所有する資産の絶対量ではなく、それまでの資産が増えたか減ったかという相対的なもので決まること多くあります。

客観的に見れば資産が多いほうが幸せであるかのように思えても、実はそうではないという点で人は論理的に生きているわけではないのです。

従来の経済学は、合理的経済人が合理的判断をすることを前提にしていましたが、人間はいつも合理的判断をしているわけではないということを行動経済学が明らかにしました。

人は矛盾を嫌うものの、いつも合理的には考えておらず、限定的な場面でしか合理性を使わないという意味で、限定合理的な生き物なのです。

そしてこの限定合理性というのは、数学という学問の世界にもあるというのです。

数学の世界でも、合理的に思えることもあれば、矛盾した辻褄が合わないこともあり、そういったものを全部ひっくるめて数学の世界なのです。

 

2045年問題は起きない

昨今、人工知能の研究が脚光を浴びていますが、それに関連して2045年問題というものが言われています。

2045年問題とは、2045年くらいには人工知能が人間の能力を超え、シンギュラリティ(技術的特異点)が起きて人類に危機が訪れるというものです。

この点について著者は、こういった問題は起きないと考えています。コンピューターが人間の能力を超えるという点でいえば、すでにいくつかの点で超えています。

例えば、囲碁や将棋などのゲームでは、膨大な統計データ処理により、勝つ方法を見つけることは人間より勝っている。

しかし、コンピューターは所詮は計算機であり、始めの段階できちんとしたルールを入力していれば、危機などは訪れないはずです。

危機が訪れるとすれば、始めのルール設定の問題と考えられます。このルール設定をプログラムするのに数学的思考が必要とされ、いい加減なプログラムをすれば、それこそ危機が訪れるかもしれないのです。

 

おわりに

数学や数学的な考え方というもののイメージが、一般的に抱かれているものとは少し違った内容が多々あったように思われます。

しかし、どれも傾聴に値し、納得できるものではないでしょうか。

数学は問題解決のためのツールではなく、何が問題であるかを発見するものであるとされるものの、問題が発見できれば、解はおのずと見つかってくるものです。

その点ではビジネスとも共通点があり、結果的に数学的思考がビジネスに役立つことにはなるでしょう。